西村Dの気象風月《#5》
「世界よ!これが日本の職人技だ!」


西村 英将

テレビもラジオも新聞も、気象庁もパソコンもない時代。江戸の人々は夏の始まりを文月(7月)最初の雷からとし、夏の終わりを〝風鈴の音が消えた日〟としていました。

7月の雷とは大気の状態に変化が起こっている証拠でありまして、梅雨から夏になる正しい判断だったと思います。では風鈴の音が消えた日が夏の終わり…これは一体どういう事でしょう?

実は、そこには日本人の職人の魂と技が凝縮されているのです。

江戸風鈴と言えばガラス製。熱々のガラスを「ぷぅ~」と膨らませ風鈴を作ります。そして音を鳴らすために本体の下部(口玉)をカットします。このカットした部分に紙紐でガラス棒を吊るしぶつかる音を楽しみます。

江戸時代。東京・深川の長屋では風鈴が軒先にズラ〜っと並ぶため、夏にはちょっとした名所になっていたようです。

飾るのは今も昔も7月の下旬。そして夏の終わりを告げるため9月の彼岸(20日頃)には風鈴の音を消さなくてはいけません。

「人の手を使わず・・・どう音を消したのか?」

それが〝紙の紐〟なのです。夏の雷雨、にわか雨や通り雨、台風の強い雨と強い風…。ひと夏の間には様々な天気になります。そんな天気の中、風鈴は軒先で晒されています。

ガラス製の風鈴自体はその程度では割れたりはしません。しかし紙の紐は限界があります。紙ですからね。この紙紐を職人は絶妙な強度で編んでいくのです。

緩く編むと、8月の途中で雨や風に切れてしまいます。硬く編むと、10月になっても軒先で音が鳴りっぱなしです。

職人人生をかけて夏の天候を予想します。「3年連続で台風が来てないから、今年は来そうだ…では硬く編んどこう!」「雨のあとには紙が自然に締まる…少し緩めておこう!」こんな予想をしながら紙の紐を編んだそうです。

夏が始まり、風が吹き、涼しげな音が下町を包み込みます。台風も来て、凄い雨風でした。にわか雨が下町を潤します。これを繰り返し、9月に入る頃には紙紐は見た目で分かる位にボロボロになっています。

そして遂にその時が来ます。台風が去って、夕方が涼しくなったなぁ…そんな9月の中ごろ。風は吹いているのに長屋からあの音が消えています。

住民はここで気づくのです…「おっ!夏が終わったな」と。

そう、風鈴職人が付けた、あの紙紐がプツリと切れて、ガラスの棒が落ちたので音が鳴らなくなったのです。それ以降は酷い暑さの日はなくなり秋の訪れです。

どうでしょう?これが世界一季節ががはっきりしている国の職人技でございます。ここまで来ると立派な長期予報。あっぱれ!!です。

そしてこれが日本の職人の技と粋でございます。

ちなみに風鈴についている短冊のような紙がありますよね。あれは【舌(ぜつ)】って言うんです。夏が終わると、下町の男も楽しみにしていた祭りや花火も終わり、少し大人しくなるんでございます。

それを風鈴から落ちた【舌】にたとえて「奴は今年も舌が落ちたなぁ〜」なんて言ったようですよ。

西村Dのだるま風鈴。

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