西村Dの気象風月《#4》
「サワー 1杯 300万円」


西村 英将

四六時中脳みそは天気で溢れている唯一無二のお天気ディレクター西村英将がお送りする、日本の気象の当たり前を問い直す企画「西村Dの気象風月」!第二回は誰もが夏に飲みたくなるあの飲み物と一番大事な「あれ」について!

シャンプーが切れている…トイレットペーパーが無くなった…綺麗なバスタオルがない!

そんな事は全然いいんです。家には絶対になくてはいけない物…それは〝氷〟!本当に僕は〝氷love〟なのです。

いま都心を中心に、居酒屋では「進化系レモンサワー」なる飲み物が絶賛大流行中!進化系ってなんでしょう?酒場が好きな人は既に知っているはず!

暑い夏にガンガン売れる「レモンサワー」、これ、普通の氷だと味が薄まってしまうので進化系では氷の代わりに凍らせたレモンが存分に入っているのです。そりゃあもう、「見た良し!味良し!気分良し!」暑い日にはこれしか飲まん!と言えちゃいます。まさに進化系。

そもそも暑い夏の夜はビールで乾杯。みなさんそうだと思いますが、気温とアルコール飲料をデータにすると、30℃を超える暑さになってくるとレモンサワーとビールでは売上歩が逆転し、サワーが勝ってきます。猛暑日にもなろうもんなら売り上げの70%がサワー系だそうです。
※2016年8月9日 東京最高気温37.7℃(東京ドーム内)

炭酸のシュワッ~とした感じももちろんそうですが、手の中にキンキンの氷がある安心感。飲み終わっても尚、口の中で転がしたり砕いたり…。

温暖化で年々暑くなる!と言われていますが、今ほどではないとは言え昔も夏は暑かった。

過去の文献で【氷】の単語が初めて出てくるのはご存じ「枕草子」。

~あてなるもの…削り氷に甘葛入れて、新しき鋺に入れたる~

意味は、筆者(清少納言)が「私が思う上品な物の一つ…〝新しい器に蜜をかけたかき氷〟」ということ。万葉集に載せるくらい好きだったのですね。好感が持てます。

冷蔵庫などないこの時代に一体どの様に清少納言の口まで運ばれたのか?

日差しの強い夏、相当な距離を運ばなければいけません。人力で100km以上の道のりです。

江戸や京都に住む偉い人の為にその仕事は1月になると始まります。極寒の山奥。広大な土地に綺麗な湧き水をひきます。表面が凍るとまた水をひき、また凍ると水をひき…。これを繰り返します。都に送る氷は一つ条件がありまして、それは〝透明な氷〟。つまり不純物のないクリアな氷をオーダーされていました。そのために氷にする水は綺麗に濾(ろか)し、更に空気が入れば取り除くという大変な作業をしていたそうです。

極寒の山奥でおよそ3か月、春まで凍らせると、夏までは氷室に入れて保管をします。断熱材などない時代、材木の粉である「おが屑」だけが頼り。氷室と呼ばれる穴蔵に氷をしっかり覆うおが屑。これで保冷しておりました。

そして江戸の街で「あさがお市」「ほおずき市」が始まる6月(現在の7月)になると「氷室開き」。江戸にいる将軍に献上する為に氷室が開かれます。
いよいよこれを江戸や京都に運びます。その量は一回でおよそ100kg。手押しの車で人数4人。移動は日差しある昼ではなく夜が中心。氷の塊が割れるとその断面から熱が入るために崩さぬように…もちろんそれを狙う盗人が居るので見張りは立てて。これを4日以内届けます。

江戸の街に着く頃には100kgあった氷は10分の1の量。10kgの氷がこの様に届くのです。

気の遠くなるお話です。

今は2017年の7月。BBQやキャンプなど、夏のイベント盛りだくさん。2kgの氷の塊が100均で買えちゃう時代。遠い古の先人に思いをはせ・・・

ありがたく今夜も冷たいサワーを頂こうと思います!

西村Dの生レモンサワー。

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