どぅーどる・ぴっくす《#4》
「サッフォー」


森 仔鹿

様々な名画を「棒人間」で描き直すことによって「ただ鑑賞する」だけでは伝わらない作品の真に森子鹿が迫る!#4はテオドール・シャセリオーさんの「サッフォー」!海というのは眺めるだけで人間に様々な想像と感情をかき巡らせますが、サッフォーは一体何を感じているのでしょうか…僕もオルセー美術館で見たことある作品です。(コミンズ編)

今日の棒人間チャレンジは、テオドール・シャセリオーさんの「サッフォー」です。

この絵は本物を見ることができました。A4くらいの小さな絵です。唐草模様の彫刻が入った立派な額に入っていて驚きました。そういえばネットや本で見る画像には額は写っていないんですよね。

絵の中に入ってみましょう。崖の上に女の人が座っています。身にまとう厚手のローブはレンガ色で、海に向かって吹く強い風に大きくあおられています。カールした黒髪は金色のリボンでキリキリっとお団子にまとめられ、後れ毛はやはり強い風に吹かれています。両腕の袖口にはフェミニンな薄桃色のレースがあしらわれ、光の当たっている右手はしっかりと岩をつかみ、影になった左手は弦楽器を抱えています。

はるか下には海。薄明かりの中、白い波頭が見えています。空には雲が渦を巻き、雲間にはいくつかの星が見えています。女性を後ろから照らす明かりはなんでしょう? 焚き火? 夕日? 朝日? 光に背を向けた顔は深い影になり、大きく見開いた眼だけが妙に白く光っています。口元も厳しいですね。何か相当考えてます。崖の外に投げ出された左足は折り曲げた右足の上に乗せられていますが、これ、私もいま同じ格好でキーボードを打っているんですけれど、確実に右足がしびれますね。

この絵の横にはキャプションがついていました。サッフォーさんは古代ギリシアに実在した女性詩人で、灯台守の美青年に片思いの末、なんやかやで身投げをしてしまったのだそうです。そう聞くと、この海を照らす薄明かりが灯台の光のようにも見えてきます。光に向かって身投げをする直前…いやいや、伝説の中ではそうなのかもしれませんが、この絵の主人公には転んでもただでは起きないような意志の強さを感じます。むしろ急変する天候の中、灯台守の身を案じて、さあて私に何ができるかなと思案している、なんてところではないでしょうか。

絵の右下には画家のサインと1849という数字が見て取れます。作者のシャセリオーさんは1819年生まれですから、20歳の頃の絵ということになります。この人は絵がうますぎて、11歳で大御所に弟子入りを許され、16歳の頃にはソロデビュー、フォロアーが何人も近所に引っ越してきちゃうような、人気アーティストでした。ところが何年か経ってから敬愛する師匠に挨拶に行ったら「考え方が違いすぎてもう弟子とは言えん」って言われちゃったんだそうです。才能ある人はいろいろ大変ですね。

本物の絵を見ると、のたくるような筆使いがよくわかり、まるで翻弄される画家の感情がそのまま画面に練り込められているように見えました。吹きすさぶ風や雲間の星も、岐路に立つ若者の葛藤や希望のようで、私は大変魅入られ、自分の20歳の頃を思い出しながら、すいぶん長い時間この絵の前に立っていました。

展覧会も終わり、この絵はパリへ帰りました。もしオルセー美術館に寄られることがありましたら、あなたもサッフォーさんに会ってみてください。私が次に会う機会があったらどんな感じがするのかな。ではまた来週、違う絵の中でお会いしましょう。ごきげんよう。さようなら。

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