どぅーどる・ぴっくす《#1》
「眠れるジプシー女」


森 仔鹿

様々な名画を「棒人間」で描き直すことによって「ただ鑑賞する」だけでは伝わらない作品の真に森子鹿が迫る!初回はアンリ・ルソーの「眠れるジプシー女」!

今日の棒人間チャレンジはアンリ・ルソーさんの「眠るジプシー女」です。

私は子どもの頃、今見えている風景は世界の仮の姿で、誰にも見られていない時には世界が真の姿を見せているのではないか、いや、そうに違いない、と思っていた時期がありました。世界はそれほど勤勉ではなく、いつもは家具や町があるように見せているけれど、誰にも見られていないときには月の砂漠が茫々と広がって、青い獣がぽつぽつと歩いているだけの、ゆるーい世界が現れているんじゃないかと思っていたのです。

時には世界の隙をついて真の世界を垣間見るべく、誰もいない部屋で素早く振り向いてみたり、ソファの下をサッと覗いてみたりしたのですが、世界の尻尾はなかなか捕まえることができません。

そんな幼少期を送っていたものですから、この絵を初めて見た時には本当に驚きました。ついに見ることができなかった真の世界が描かれていましたからね。ルソーさんは大したものです。

久しぶりにじっくり見てみると、静かに広がる砂漠の砂は赤いことに気づきます。その向こうに見える水面は内海なのか、風の気配もなく、波もありません。さらに向こうには月明かりに浮かぶ乾いた山々。そして空には六つの星。今回描いて気づきましたが、お月様には微笑んでいるような模様が浮かんでいるんですね。

眠る女性の手には杖。肌の色は濃く、爪は桃色。同じ桃色のプリーツの布を頭にかぶっています。身にまとうのは鮮やかなポールスミス風のストライプ。これは描いていても楽しいですね。敷いているラグも同じ模様でおしゃれです。

傍らにはリュートがあります。聴いた人が必ず眠くなってしまうという楽器です。動物も眠ってしまうそうですよ。オレンジ色の壺は水差しですね。杖とラグと楽器と壺は一人では持ってこられませんから、彼女は旅の途中ではなく、安心できる場所の近くにいるのでしょう。

おそらく毎晩、ラグと水差しを持ってここに座り、馴染みの獣に子守唄を弾いているのでしょう。ところが今日は自分の音色で眠くなってしまい、先にまどろんでしまったんですね。

あれぇ? という獣の表情がチャーミングです。女性の寝顔も穏やか、口元にはお月様に似た、微かな笑み。じっと顔を見て描いていると、目を覚ましちゃうんじゃないかとドキドキしました。おやすみなさい、良い夢を。実は毎晩、私もそこの砂漠で眠ってます。

この絵の本物はニューヨークのMOMAにあるということです。いつか本物を見てみたいなあ。ではまた来週、違う絵の中でお会いしましょう。ごきげんよう。さようなら。


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